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 いつの間にか、季節は秋も半ばを越え、冬に向かっていた。
「おめでとう、遠野さん」
 私の手には「内定通知」と書かれた1枚の紙切れがあった。独学で簿記2級を取得していたのが幸いしてか、会計事務所への就職が決まったのだ。いつまでも親の遺産をあてにしているわけにはいかないし、知にふさわしい自分でいるためには就職は絶対に不可欠なものだった。
 そのことを帰宅してひなせに話すと、彼女はたいそう喜んでくれた。ひなせも就職活動をしているけれど、なかなかいい条件のものがないのだそうだ。
「選り好みしてちゃダメよ。実際私が見た感じだといいものはいっぱいあったわ」
「でも……お姉ちゃんと一緒にいられる時間が少なくなるのは嫌」
「そんなこと言っててもねぇ……」
「だから公務員試験も全部蹴ったんだ。転勤とかあるから、お姉ちゃんといる時間が減っちゃう」
 そんなひなせにあの結論を話すのは気がひけるものがあったが、話さずにはいられなかった。私たちの不毛な関係を清算して、お互いに一歩踏み出せるように。

「え……」
「私はそうしたいと思っているし、そうあるべきだと思ってる」
「嘘だ……嘘だ嘘だ!やめてよお姉ちゃん、あんな男をうちに連れてこないで!」
 きわめて冷静に伝えようとしたけれど、それがかえってひなせの神経を逆撫でるのか。どんどんひなせはヒステリックに私を追い詰めていく。
 私が伝えたこと。それは――卒業したら知をうちに連れてきて、3人で一緒に暮らすということだった。勿論知は「兄」として受け入れるけれど、果たして私の脳みそがそれを理解してくれるかはわからない。
「でもねひなせ。貴女は否定するけれど、知は私たちの兄さんなんだよ」
「そんな都合いいときだけ『兄さん』なんて言わないで。結局お姉ちゃんは先生と一緒にいたいだけなんでしょう?」
「……」
 そうだ、ひなせの言うとおりだ。私は都合のいい方向に物事を捻じ曲げようとしているのかもしれない。知と結婚できない以上彼と一緒にいる方法はそれしか残されていなかったから。
――私の思考さえ、闇に、沈んでいく。
 私はこんなに独占欲が強くなかったのに。知とともにいるためならどんなことでもしようとしている。ひなせが私にそうするように。

 そう、私たちはどこまでも、双子だった。
 実の肉親に思いを寄せて身体を重ね、相手を手に入れるためなら何でもするという思考回路までもが、二人して共通していた。

 その夜の責め苦はいつも以上のものだった。
 どこで覚えてきたのか、ひなせは私の全身をロープで縛ってしまう。それどころか手と足をベッドにくくりつけ、更に目隠しまでするという有様。そこにいつぞやの媚薬まで加わって、私はなにもされていないのにおかしくなりそうだった。
「酷い事言ったお仕置きだからね。今日は絶対にあたしに従ってもらう」
 その言葉は、死刑宣告に近いものがあった。自らの言葉で絞首台に立ったようなものだけど……。
「あんな男のことなんか忘れさせてやるんだから」
 強制的に口付けられ、舌を絡めとられる。やめて、と言いたいのに言うことを拒否されている。言ってはいけない。従わなければいけない。
 そして私は最低なことに、そんな状況にさえ燃えてしまっていた。
 そのままひなせの舌がつーっと首筋を、胸元を降りていき、私の胸の頂にたどり着く。
「なんだお姉ちゃん、固くしちゃって。そんなにあたしが欲しかったの?」
 いつか知に言われたのと似た言葉だった。ちゅううっと思い切り吸い上げられて、反射的に声が出る。
「ああっ、ひなせ、痛い……」
「お仕置きだもの、痛いぐらいがちょうどいいでしょ?」
 ひなせの表情は目隠しをされているから窺い知れなかった、けれど鬼の形相なのは容易に想像がついた。それか私を見下すように、濁った瞳で微笑みかけているのか。


 お姉ちゃんは今になってなんて血迷ったことを言ってるんだろう。
 許せないゆるせないユルセナイ。あんな男にお姉ちゃんを本当に取られてしまうなんて絶対に許せない。毎晩お姉ちゃんがあの男に抱かれているのを想像するだけで吐き気がする。もし相応の理由があれば人を殺していい、そんな世界だったらあたしは間違いなく先生を殺している。そうすればほら、お姉ちゃんはずっとあたしだけのもの。
 お姉ちゃんが痛がるのなんて気にも留めてやらない。これは世迷いごとを放ったお姉ちゃんへの罰。
 一番感じる突起は軽く噛んでやった。
「ひっ!」
 恐怖に怯えるお姉ちゃんの声がたまらなく愛しい。もっとその声を聞かせて。
 何度もそこをきつく吸い上げると、最初は苦痛を訴えるだけだったお姉ちゃんの声が次第に甘いものになる。
「ひあ、あ、あ……ん」
「痛いなんて嘘ついちゃって。ここもうビショビショだよ」
 いつもなら指でお姉ちゃんの中をまさぐるんだけど、今日はお仕置きだ、そんなまどろっこしいことなんてしていられない。
 新しく買った、前より大きな玩具をお姉ちゃんのそこにあてがう。前と違うのは大きさだけじゃなく、形。あたしとお姉ちゃんと二人で繋がれる代物だった。
 何も言わずそれをあてがうと、お姉ちゃんは逃げるように腰を動かす。でもそれは両手両足を縛り付けられたお姉ちゃんにはかなわないこと。
「いっいやああああ!」
 あられもない姿で叫ぶお姉ちゃんに構わず、それを押し込んでいく。お姉ちゃんのそこに飲み込まれていくのはものすごく淫靡な光景。私まで欲しくなっちゃう。
「ひなせ、痛い、痛いよ……」
「え?いつも先生のを美味しそうにくわえ込んでるのに痛いって言うの?お姉ちゃんてほんと意地っ張りなんだから。そのうち気持ちよくなるから我慢してねー」
 いつもと同じく超でいい、軽く鼻で笑うとあたしはそれを動かし始めた。おそらく先生がしてるのと同じように。
「やめ、ひなせ、やめて、お願い……怖いよ」
「怖くないよ、だってお姉ちゃんすごく綺麗だもの」
「そうじゃ……なくて、あぅ……」
 ほら、なんだかんだ言って感じてるんじゃない。
「先生のがどのくらいの大きさかは知らないけど、こんなものでいかされて恥ずかしくないの?」
「ちが、これ、知のより大きすぎるよぉ……」
「あー、認めた認めた。ほら、あたしのほうが先生よりよっぽどいいでしょう?」
 先生ってば、意外とたいしたことないんだ。このぐらいの大きさならあたし余裕なんだけどな。
 でもそれはつまり、お姉ちゃんに今までにない感覚を与えているということ。こんな大きいものはお姉ちゃんも初めてらしいから。
 やがてお姉ちゃんが声にならない声を上げて身体を大きくびくつかせると、あたしは更にそれのスイッチを入れる。前の玩具と同様に淫靡な動きをもってしてお姉ちゃんの中をかき回すのだ。
「ひゃんっ、ん、んううぅ!」
 達した先から新しい責めを加えてあげる。さあ、これからどうしようか。
「お姉ちゃんが100回いったら許してあげるよ」
「ひゃっかい……そんなぁ、むり……」
「だめだよ。100回いったらお姉ちゃんの言うとおり先生をうちに迎え入れる。そうじゃなかったら……あたしお姉ちゃんも先生も殺して自分も死んじゃうかもしれない」
 それは半分は嘘で半分は本当だった。お姉ちゃんが100回いったら、はさすがに言いすぎた気もするけれど(せいぜい50回ぐらいでよかったか)、もしあたしの要求を呑んでもらえないようならお姉ちゃんと先生を殺して私も死ぬ。その覚悟はできていた。
 もっとも、そんなことする必要なんてないのは知っていたけど。お姉ちゃんは絶対にあたしとの約束を破棄しない、そういう人だから。

「それは……」
「嫌なら言うこと聞いてね」
「っ……」
 唇を噛むお姉ちゃん。そうそう、そうやって悔しがるといい。そのうちお姉ちゃんは快楽に負けて何も言い返せなくなるんだから。
 スイッチをスライドさせ、それの動きを早める。
「だ、めぇ、あ、あ、あああぁ……」
 身体をガクガクとさせ始めたお姉ちゃん。ここからカウント開始だ。
「いく?お姉ちゃんいきそう?」
「あは、ああ、いやぁ、だめ……」
「いくの?いかないの?」
 少しだけ語気を強めると、
「はい、いきますぅ……ひなせぇ、いく、いく……っあああああ!」
 いとも簡単に達してくれた。
「はい、じゃあ1回目ねー。残り99回」
 きっと目隠しの下で、お姉ちゃんは絶望的な表情をしているのだろう。それがたまらなくいい。

「ぁ……」
 お姉ちゃんはもはや声さえ出せなくなっていた。
「99回。あと1回だよ」
 そこであたしは、やっとお姉ちゃんのそこから伸びるものに腰を落とす。
「んあああぁ、いい、いいよぉ……」
 ただ身体をびくつかせて声だけは出さないお姉ちゃんとは対照的に、あたしは貪欲に感じていた。
――ああ、やっとお姉ちゃんと一つになれた。お姉ちゃん、大好きなお姉ちゃん。
 腰を容赦なく動かすと、お姉ちゃんの身体が跳ね上がる。でもまだいっていないようだ。
「いくよ、お姉ちゃん……!」
 やがてあたしのそこから全身を電流のような快感がかけのぼり、同時にお姉ちゃんはさっきよりも大きく身体を跳ね上げた。
「……100回」
 無遠慮にお姉ちゃんのそこから玩具を抜き去ると、縛っていたロープを全て解き、目隠しも取り去る。
お姉ちゃんは焦点の合わないうつろな瞳であたしを見返していた。いや、でも多分それを「ひなせ」とは認識できていなかっただろう。
「よくできたね、お姉ちゃん。卒業したら先生を連れてきていいよ」
 お姉ちゃんからの返事は、なかった。






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