「先生、今のメール彼女?」
「まさか。僕にはそういう相手いませんし当分作る気なんてしませんね。だって面倒じゃないですか。あ、ウノ」
「えーマジで?先生ずるい!」
 合宿のお楽しみ、顧問を交えてのウノだ。とっくに消灯時間が過ぎてるのに……いったいなんなんだろうここの学校の生徒会は。もっとも、そんな私もウノ大会に参加しているわけだけど。先生が参加するのに私が参加しないなんてもったいない。 
 そう思っていたら、先生からメールがきた。
「夜、しよう」
 って、実に単刀直入なメールが。周りに気づかれないように返信。
「馬鹿言わないでください。ここが何処だと思ってるんですか」
 その間に先生はあがってしまった。残るは私とあと2人。
「合宿場ですよ。そもそも前に物理準備室でしたのは何だったんですか?」
 そこまで言われると返す言葉もなくなってしまう。
「わかりました。じゃあ2時頃に。怪しまれないようにしてくださいね」
 結局ウノは私の惨敗。罰ゲームはありがちなもので、好きな人をバラすってやつ。私と先生の仲を知っている人は当然誰もいないわけだから、周りを騙すのは簡単だった。
「いませんよ。そういうの面倒じゃないですか」
「ひなたちゃんまで先生と同じこと言うしー」
 実際は面倒でもなんでもない、むしろ幸せなんだけど、さっきの先生の言葉の仕返しだ。そりゃちょっとは怒る。彼女の目の前で「めんどくさい」だなんて。

 深夜の合宿施設のトイレの個室。
「さっきはすみません。あそこで余計なこと言うとあとが大変でしたから」
 なんて先生は小声で言うけど、私の軽い怒りは収まらなかった。
「その分かわいがってあげますから」
 私にしか見せない甘ったるい笑顔に、不覚にも私の固まった心もほぐれてしまった。反則だ。先生はいつも反則と言ってもいいような手ばかり使う。
「じゃあ、脱いで」
 あっさりとそう言う先生に、は?といったような目を向けた。
「脱ぐの。全部」
 言葉遣いが違う。最初から理性が飛んでしまっているの?
「でも」
「脱げってば」
 そんな感じで、半分無理矢理全裸にされてしまった。
 ここ、合宿場のトイレなのに。誰かが気づいたら困るなんて問題じゃないのに。
「ぁ」
「しっ。時間ないから早めにするぞ」
 言うなり先生は私のそこに舌をつけた。一番気持ちいい突起を数回舌で撫ぜられただけで、何かが奥から溢れ、身体がビクビク震えるのがわかる。
「じゃあ次は俺の番」
 先生、いや知は完全に理性を失っていた。すっかり硬く大きくなったものを無理矢理に咥えさせる。
「んぐ、ぐ、う……」
 苦しいって言いたいけど言えない。先生の動きには容赦がなかった。喉の奥までそれが突き刺さっても知らん顔だ。涙目になりながら先生のものを更に昂ぶらせると、腕を引っ張られた。立て、ってことらしい。
 口の中に私の下着を押し込まれる。声を出すな、ってことみたいだった。それはわかるけど、こんなやり方はひどい。
 先生を恨みがましい目で見るけど、優しく微笑みを返される。この人は悪魔だ。でも私はこの悪魔に魅せられている。
 片足を大きく持ち上げられた。入口に先生の先端が当たる。来る、と思う間もなく一気に貫かれた。
「ううううっ!」
「静かに」
 ここが先生の部屋なら、ホテルなら、私は大きく喘いで先生にどれだけ気持ちいいか伝えられただろう。けど、それは叶わないことだった。
 私の下着が口の中に詰め込まれ、更に手で口を塞がれている状態だ。こんな、半分レイプみたいな状態で、私は先生と繋がってる。
 先生のがいつもよりもっと熱い。私も怖いぐらいに溢れてしまっていて。自分の身体の水分が全部そこから流れ落ちてしまっているような錯覚。
「っ、う……」
「だから声出すなって……」
 立ったまま壁に寄りかかり、片足を上げられる格好で私は先生と繋がってた。唇は先生の手と丸め込まれた下着で抑えられ、声が出せない。
 いや、こんなところで声なんて出そうものなら……。
 そもそもさっき先生が誘ったのがいけないんだ。のこのことそれについていく私も私だけれど。
 いつもと違う格好でしているからいつもと違うところに先生のものが当たって、息苦しさはいつもの数倍。なのに声を出させてもらえない……拷問だ。でもあたしの身体は先生にすぐ馴染んでうねり、先生にも快楽を与えている、みたいだ。
「ひなた」
 先生だって、声抑えられてない。
 先生も静かにしてよ、そうやって繋がったところをヒクヒク動かして伝えると、先生は頷いて更に腰の動きをねちっこくいやらしいものにしていく。
 ガタン!
 突然の物音に、先生は一瞬怯んだみたいだった。でもそれも、あくまで一瞬のこと。
 誰かが用を足しに来たのは私も先生もすぐにわかった。そこまではよかったんだけれど。
「!」
 先生の動きがねちっこいものから激しいものへ変化する。そんな、だめ、人がいるのに……。
「ぅ、ぅ……」
 私の声は水を流す音にかき消されたけれど、どうしよう、人がいるところでこんなになって……しかも先生は服着てるのに、私だけ全裸。ひどい仕打ちだけど、でも、先生なら許せてしまう。
 再びドアが閉まると、そこは私たちだけの空間。声を出すことは許されないけれど、先生が最後の追い込みにかかったみたいだ。私の口の中の下着も引きずり出された。
「ひなた、俺……」
「私も、早くぅ……」
 思いのほか大きな声が出てしまったらしい。また、先生が私の口を手で覆う。
 かさ、とまた物音がしたが、そんなの構っていられない。早く解放して――
 思った瞬間先生のものが私の中で脈打った。熱いどろりとしたものが私の腿を流れ落ちていくけれど、それが私のものなのか先生のものなのかわからなかった。

 どういう風の吹き回しなのか。
「へ?」
「だから、一緒にお風呂入ろうって言ってるの」
 お姉ちゃんの意思が一瞬読めなかった。あれほどまでにあたしと一緒にお風呂に入ることを拒んでいたお姉ちゃんなのに。
「ほら、合宿中ひなせには寂しい思いさせちゃったでしょう?だから」
 言いながらお姉ちゃんはバスタオルを用意する。
 今しかない、と思った。あたしは部屋に戻って、お姉ちゃんにはわからないようにあれを…玩具を用意した。

「合宿どうだった?」
「相変わらずよ。消灯時間になってもみんな大富豪とかやってるし、先生までそれに参加しちゃうんだから」
 お互いの背中を流しながら、あたしとお姉ちゃんは会話をする。
「先生とは何かあったの?」
「馬鹿ね、あるわけないじゃない」
「嘘だーあのスケベ教師がなにもしないとかありえないし」
 ふふ、とお姉ちゃんは笑う。全くなにがおかしいんだか。
 今度は同じバスタブ、大きなバスタブに入っての会話だ。私とお姉ちゃんの家は一般的には豪邸といわれるもので、両親が事故死したとき莫大な遺産をあたしたちが引き継いだから、こうして普通の高校生活を送れている。
「そうだ、お姉ちゃんがいないうちにいいもの用意したんだ」
「いいもの?」
「うん、すっごくいいよ」
 あたしはそれを使ったときの感想を端的に述べた。ばれちゃうとつまんないし、何より言っちゃえばお姉ちゃんを捕まえられない。
「お風呂から上がったら見せてあげるよ。着替えたらあたしの部屋においでよ」
「うん、わかった」
 よし、これで第1関門はクリア、か。
 あたしは決めた。お姉ちゃんを手に入れるためならなんだってする。

「ひなせ?」
「お姉ちゃん遅かったね」
「うん、お風呂の掃除もしてたから。で、なに?いいものって」
 完全にいつもの調子のお姉ちゃんだ。そんなお姉ちゃんに例のもの……卵形の小さい玩具と男性のそれをかたどったものを見せ付けてやる。
「ひなせ、なに、これ……」
「なにって、見たとおりだよ。それともお姉ちゃん、先生と使ったことないの?」
「あるわけないじゃない!ふざけるのもたいがいにして!」
 勢いよく立ち上がろうとしたお姉ちゃんだけど、モノがモノだけに、驚いて力が抜けてしまったらしい。立ち上がろうとした勢いは失われ、へたりこんでしまう。
「じゃああたしがお姉ちゃんに教えてあげるよ。これがどんなにいいか」
「や、やめて!」
「この家壁厚いから誰にも聞こえないよ。お姉ちゃん、もう無理なんだよ、あたしお姉ちゃんのこと好きなんだよ。だからあたしの言うこと聞いて」
「そんなの矛盾して……きゃあああっ!」
 お姉ちゃんのパジャマのボタンを外す……いや、引きちぎったといったほうが正しいかもしれない。お姉ちゃんはパジャマの下には下着をつけない。それは昔からの習慣で知っていることだった。
「ついでにこんなのも用意してみたんだ」
 あたしが取り出したのは真っ白なファーのついた手錠。これなら痛くないと思ったから。そういうものを選ぶあたりが、あたしからお姉ちゃんへの愛情の表れでしょう?
「ひなせ……」
 もうお姉ちゃんは完全に力が抜けてしまったようだ。ベッドにへたり込んでしまった。そのほうが都合がいい。あたしはお姉ちゃんの後ろ手に手錠をかけ、残った服を全て剥がしていく。
「ねえ、ひなせ、だめ……」
「だめじゃないよ、すぐによくなるから」
 我ながら悪魔だ、と思う。けどもう止められない。お姉ちゃん、綺麗すぎるから。
 今しかお姉ちゃんをあたしのものにするチャンスはない。
 お姉ちゃんの唇にあたしの唇を重ねる。日ごろから先生のために手入れしてるみたいで、すごく柔らかい。
 そっと舌を差し込む。お姉ちゃんの舌が逃げ回る。それを捕まえると、お姉ちゃんは諦めたのか素直に応じてた。
「先生ずるいよ」
「私に……嫉妬してたんじゃなかったの?」
 キスでどうにかこの状況を受け止められるようになったのか。お姉ちゃんが吐息混じりに言う。
「違うの、先生に嫉妬してた。お姉ちゃんのこと好きだから」
「でも私たち」
「そんなの関係ない」
 言葉を制して愛撫を続ける。双子だなんて同性だなんてそんなのわかりきっているから。
「関係ないわけ……ひゃっ」
 お姉ちゃんが五月蝿いので、その乳首に吸い付いて言葉を制した。やっぱり。お姉ちゃんの身体はすっかり先生に開発されて快感の虜になってた。
「ね?関係ないでしょ?」
「ひなせ、お願い、もう」
 お姉ちゃんは泣いていた。本気でやめて欲しいと懇願していた。でも、残念だけどあたしはその手には乗らないよ。
「これでもそんなこと言ってられるのかな、お姉ちゃんは」
 ピンクの卵形した玩具を手にとって、コードをぶら下げるようにしてお姉ちゃんの胸に垂らす。
「あう、あ、やめて……ひなせ、やめ……っ」
 半泣きでお姉ちゃんは言うけど、お姉ちゃんが感じてるの、あたし知ってる。声でわかる。
「じゃあ何でそんな声出してるの?お姉ちゃん気持ちいいんでしょ?ねえ言ってよ」
「ちがっあああぁ!」
 お姉ちゃんの乳首に再び吸い付く。舌で転がすとかすかに甘い香り。先生がコレを独り占めしていたんだ。ずるい。
「ほら、違わないでしょ?認めなよお姉ちゃん」
「いや、いやぁぁ……」
「暴れないで。お姉ちゃんったら素直じゃないんだから」
 あたしはそこで制服のエンジ色のリボンを取り出してきて、お姉ちゃんの手首の手錠をベッドに縛りつけた。
「待ちなさい、ひなせ……ちょっと!」
「嫌だ、待たないよ。お姉ちゃんは今はあたしだけのモノなんだから。それとも先生とこういうことしたの?」
 お姉ちゃんの顔がボッと真っ赤になる。ふーん、縛りもしたんだ。道理であの朝帰ってきたとき手首赤かったと思ったんだ。
「じゃ、お姉ちゃんもう逃げられないよ。言うこと聞いてね。でないとすごく痛くするから」
 痛くする気なんて毛頭もないのに言ってやる。お姉ちゃんはそれ以降おとなしくなってしまった。やっぱり脅しが効いたのも知れない。
「あ、もうびしょびしょだよお姉ちゃん。あたしにされるのそんなに気持ちよかったの?ねえ答えてよ」
「……」
 お姉ちゃんは無言だ。でもお姉ちゃんの身体は素直。
「なんで素直になってくれないの?いつもなら素直に生徒会のこととか先生のこととか話してくれるのに……」
 お姉ちゃんの脚を開くと、すごく綺麗な入口がまず目に入った。本当に先生としてたのかって思うぐらいの。
「もっと気持ちよくしてあげる」
 笑いながら言うと、あたしは玩具の卵型の部分を手にとって、お姉ちゃんの一番気持ちいいところに当てがう。もちろん振動は最強にして。
「きゃああぁ!」
 お姉ちゃんは逃げようと腰を動かすけど、そうすると逆に気持ちいいところを探してしまうみたいだった。ほら、やっぱり感じてる。欲しがってる。
「欲しいの?欲しくないの?どっち?」
「ぁう……ほし……」
「どっち?」
「ほし……ほしいの、ひなせ……」
 お姉ちゃんも根負けしたみたいだ。これで完全に主導権はあたしのモノ。お姉ちゃんもあたしのモノ。
「じゃ、動いちゃだめだよ」
 お姉ちゃんの腿を抑えつけ、一番感じる場所に卵形の部分を押し付けた。強く。
「やあああぁぁっ!」
 あたしの腕の中で、お姉ちゃんが泣きながらビクンと身体を大きく痙攣させる。
「お姉ちゃん、もうイッたの?」
「うん……」
 一度達したからなのか、お姉ちゃんは妙に素直だった。
「ひなせ、私、こんなの初めて……」
「ふーん、ってことは先生とこういうの使ったことないんだね」
 次にもう一つの玩具――男性のそれをかたどったものだ――を取り出すと、さすがのお姉ちゃんも目の色が変わったようだった。
「使うわけないじゃない!」
「でもこれ、すごくいいんだよ」
「ってことは、まさかひなせ……」
「そう、お姉ちゃんのために買ってあげたんだけど、試しにあたしも使ってみたんだ」
 自分でも残酷な返事だと思う。けど、これがお姉ちゃんをあたしのものにする最終手段だ。
「痛くないの……?」
「お姉ちゃんなら先生のをここに出し入れしてたんでしょ?」
 言いながら、お姉ちゃんの中に指を滑り込ませる。
「んは……っ」
「だから多分大丈夫だよ」
「ひゃう、あ、ああぁ!」
 お姉ちゃんの中があたしの指をギチギチと締め付けてくる。そりゃ先生もお姉ちゃんを手放さないだろう。だってあたしの指だけできついんだもん。
「じゃ、お姉ちゃん、挿れるね?」
 返事をしない。あたしはそれを肯定と勝手に判断して、お姉ちゃんの中にバイブをちょっとずつもぐりこませていく。先生ので慣らされて簡単に入っていくのが憎らしい。先生を恨んだ。
「ひなせ、痛いっ」
「痛い?じゃあこうするとどう?」
「ん……痛くない」
 お姉ちゃん、ちょっと息が上がってるみたいだ。一度イカされて従順になってるのが救いだった。
「じゃ、一気に行くからね」
 言うとあたしは、クリトリス用のバイブのスイッチとお姉ちゃんの中に入っているモノのスイッチを一気に最大までスライドした。
「きゃああぁぁっ!」
 堪えていただろう涙がぶわっと溢れてお姉ちゃんの目尻を伝った。
「だめ、これだめぇ……こんな、やぁ、はじめて……」
 まだ少しも動かしていないのにお姉ちゃんの腰はもうガクガクだ。なんだ、十分気持ちよさそうじゃない。さすが先生に飼いならされてるだけある。
「初めて?こんな気持ちいいの初めて?」
「うん、あ、ひなせぇ……いいよぉ、はぁ、あぁ……っ」
 泣きながらもお姉ちゃんは快感を認めた。嬉しくなって今度は更にピストン運動も加える。中をかき回される感覚、一番感じる場所への刺激、振動、更に中で出し入れされる感覚まで加わるとさすがのお姉ちゃんもめちゃくちゃになってしまうだろう。
「あ、あぁ、んあ、だめ、きもちい……ひなせぇ、きもちい……」
 うわ言のように呟いてるお姉ちゃん。目はどっかにトリップしちゃったみたいに虚空を泳いでた。涙がいっぱいに溜まってた。嫌がってるように見せかけて気持ちよさそうにしてる。腰がビクビクしててバイブを動かすと変なところに当てて痛がらせてしまいそうなくらい。
 完全にお姉ちゃんがあたしの手の内に堕ちた瞬間だった。
 信じられなかった。たった1回でお姉ちゃんが堕ちてしまうなんて。やっぱりこの気持ちよさにはお姉ちゃんも勝てないのかな。
「やめて、ひぁ、ひなせっ、イク……」
 ぎりぎりとバイブを締め付けてるのが、動かしているだけでわかる。
「じゃあいっちゃえばいいんだよ」
 何事もなかったかのように言いながらも、あたしだって内心では興奮してる。大好きなお姉ちゃんがあたしの手で、先生に見せるような可愛い反応をしてくれている。
「だめ、も、だめぇ、ああああぁぁぁ!! んふっ、ん……」
 鳥肌が立ちそうなほどに可愛らしい声をあげて、お姉ちゃんは達した。まだ余韻が残ってるみたいで、しばらく何もできずにいたみたいだった。

「ひなせ……どうしてこんなこと……」
 全てが終わり、手首の手錠とリボンからもバイブレーターからも解放された私は、そう言うのがやっとだった。何が起こったか、全てが終わってからようやく飲み込めた。その最中はただただ信じられなくて怖くてどうすればいいかわからなかった。
 ひなせがあんなものを持っていたことでさえ私にとっては驚くべき事態なのに、更に私自身がそれに、妹に犯されてしまうなんて。しかも、それで快感を得るなんて。信じたくないけれど、コレが現実。
 先生に飼いならされた身体は、ひなせにも飼いならされた。私の身体は私のものであって私のものでない。ひなせと先生の共有物になってしまった。
「お姉ちゃん、あたしのこと見てくれてなかったじゃない」
 緊張の糸がぷつりと切れたのか。ひなせは泣きながらそう呟いた。
「でも、だからってこんなひどいことしなくてもいいじゃない」
 私だって泣きたい。あんなはしたないところを、よりによって妹に見られ、妹の眼前でそういう面を引き出されたのだから。
「こうでもしないとお姉ちゃんはあたしに見向きもしてくれないじゃない。いつも先生先生って。あたしがどれだけつらかったかお姉ちゃんにはわかる?」
「……ごめんね」
 それしか言えなかった。脳が麻痺同然の状態になってそれしか言葉が思い浮かばなかった。
「でも、もうこんなことはしないで」
「嫌。先生ばっかりお姉ちゃんを独り占めにして」
「もうやめて、元の仲のいい姉妹に戻ろう」
「できないよ。だってあたし……」
 ひなせの言いたいことはわかっていた。けれど、それは決して許されないこと。私と先生の関係でさえ苦しいのに、実の妹まで巻き込むなんて。それはひなせもかわいそうだ。
 でも、結局可愛いのは私自身だけなのかもしれない。
 大好きな先生に優しくされて、明るい妹を独り占めにして有頂天になってただけなのかもしれない。
 もしかしたら私はこの苦しみ、板ばさみを楽しんでいるのかもしれない。
「……わかった」
 根負けした。というより、快感に勝てなかったというのがホントのところ。情けない事に、私は先生からは決して与えられないような快楽に負けてしまったのだ。
「でも、私たちは姉妹なんだから。こういうことはあまりしないで……私もひなせもつらいだけでしょう」
 嘘だ。つらくないくせに。この状況を内心では喜んで受け止めてたくせに。内心では自分に毒づいた。
「あたしはお姉ちゃんが前みたいにいろんな話とかしてくれなくなったのがつらいんだよ」
「ごめんね……」
 姉失格だ。私は心も身体も堕ちてしまった。
「だから、生徒会の友達に頼んだんだ」
「え?ひなせ生徒会の人に知り合いいないでしょう」
「いないよ。でも友達伝いに生徒会の人に頼んでコレ、撮ってもらったんだ」
 そこでひなせが私に見せてきた写真。
 あのとき、生徒会の合宿のときの。私と先生がキスしながらひとつになってる写真だった。
「ひなせ……!」
 思わず怒りをそのまま口に出そうとするけど、ひなせのほうが行動は早かった。
「大丈夫だよ、この人にはちゃんと口止めしてあるから」
 コレを使って、とでもいわんばかりに私を陵辱した道具に目をやる。
 ひなせはそこまでしてでも私を欲しがっていたのか。何より生徒会にこの事実を知っている人がいるのか。慄然とした。
「この写真ばら撒かれるのとか、生徒会の人にばらされるの嫌なら、お姉ちゃんはあたしのものになるしかないんだよ」
 私と同じ顔をした、残酷な妹。その妹の申し出…いや、命令に、私は従うしかなかった。
「ねえ、お姉ちゃんだけ気持ちよくなるの?あたしにはしてくれないの?」
 その言葉にも、あらがえない。
 さっきひなせが私にしたことを、そのまま返すような形で私はひなせを抱いた。
「ひゃう……もっとぉ」
 ひなせは何処までも貪欲だった。そこまで私を欲していたという事なんだろうか。
 でも私は女の人の身体を弄んだ事なんてないから、何をどこまでどうすればいいかわからなかった。どうすればひなせが痛がらないか。どうすればひなせを満足させられるか。そればかり考えて、私は到底興奮するどころじゃなかった。
「ひなせ、大丈夫?」
「やぁ、そうじゃなくてぇ……もっといいの欲しいの……」
「いいのって、これ?」
 恐る恐る私を陵辱した玩具を手にとって、ひなせに訊ねる。
「うん、早くして……」
 言われるままにひなせのそこにそれを当てがい、軽く押し込むようにする。意外にも簡単にそれが飲み込まれていくのには私も驚いた。
――ひなせ、そんなにも男の人としてたっけ?
 そんな私の穏やかでない心中を知っているのかいないのか。ひなせは大きく歓喜の声をあげた。
「っは……あ!お姉ちゃ……ぁ」
「ひなせ、本当に大丈夫?痛くない?」
 気遣って訊ねると、ひなせは大きく頷いて。
「これ、動かして……そう、あ、もっと……強くしてぇ」
 ひなせの言うとおりにそれを出し入れしたり、スイッチを強いほうへスライドさせたり。もう私は言われるままにしか動けなくなっていた。
「あ、お姉ちゃん、あたし、あたし、もう……イッちゃう……」
 ひなせももう限界が近いみたいで、あの快楽を知ってしまった私は早くひなせを解放してあげたくなって。
「――ぁ――」
 ひなせは小さく叫び、私の腕の中で身体を引きつらせるとともに意識を失った。
 力を失った妹の身体をそっと仰向けにベッドに横たえ、私は自分のパジャマを掴むと、そのままひなせの部屋から走り出した。泣きながら。

 起きてはならない事が、起きてしまった。信じたくなかった。でも、これが現実。

 あれほどひなせを怖いと思った事はなかったし、あれほど先生に助けを求めたかった事はなかった。でも、こんなことが先生に知られてしまったら……。
 先生は、私を軽蔑するだろうか?
 この時間なら先生はまだ起きている。でも、今の状態で、涙声で先生に電話したらきっと先生は心配するだろう。そうしたら、私の身に起こった事実を話さなければなくなる。それだけは絶対に避けたかった。
 何度か携帯の電話帳から先生のデータを表示させては待ち受け画面に戻す、そういった意味のない作業が何度も繰り返されるうち、いつの間にか私はベッドにもたれたまま眠りについていた。

そのとき見た夢は最悪なものだった。
 ひなせが先生に向かって何かを話している。ここまではいいのだ。ただ気になったのは、その唇から発せられた言葉。
「……でしょ、お兄ちゃん」

――おにいちゃん?

 訝しく思った私は、仲よさそうに話す同じ顔をした妹と、相変わらずどこか心中を読めない先生に声をかける。
「先生が?ひなせ、あなたもうちょっと言葉遣いってものが……」
「何で怒るの?先生はね、今まで行方不明だったあたしたちのお兄ちゃんなんだよ」
 しれっと言ってのけるひなせ。その双眸にはいつにない真剣さと穏やかさが宿って。
「そうだよねー」
「ええ。申し訳ありません、今まで心配をかけてしまって」
 口調はあくまで「先生」だけれども、その中に何かただならぬものを感じて。
「先生……知?」
「ええ、僕は本当のところだと『遠野知』を名乗る身なんですけどね。里子に出されたので、『藤沢知』なんですよ。僕も最近知ったんですけどね」
「じゃあ、知は……」
「ひなたの兄、になりますね」
 という事は。私は同じ過ちを繰り返していた、ということ……?
 ひなせが私を想うのと同じことを、私がしていた、ということ……?
「じゃあ、私との関係は」
「今でもひなたが好きな事には変わりないです」
 きっぱりと言い切る知の目には迷いの色はなかった。
「でも、私、私は……!」

 目が覚めると同時にくしゃみ。そうだ、私はまだ裸のままだった。
 同時に先ほどまで繰り広げられていた光景が夢である事に安堵した。
 確かに年齢的に先生は私たちの兄といってもいいかもしれないけれど、さっき実の姉妹であるにも関わらず身体を重ねた罪悪感からそういう夢を見たのだろう。
――でも、もしそれが本当だとしたら……?
 そう考え始めるともう止まらなくなってしまう。その後は結局ろくに眠れないまま朝を迎える事になってしまった。





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