あたしが同僚の小柳渉に惹かれていったのは、きっと偶然だけではないと思う。 初めて出社した日に同じ部署になったときの、あのさわやかな挨拶と笑顔。就活で疲れきった他の同僚とは何かが違う、そう思っていたのだ。思えば一目惚れだったのかもしれない。仕事もあたしなんかよりよくできて、やがて一番の精鋭ぞろいといわれる企画第1課に社内異動になった。 一方のあたしは、相変わらず総務課で給与や休暇の管理やお茶汲みという代わり映えのない毎日を過ごしていた。少しでもいい、何か変化があったらな、と思った矢先だった。 「矢崎君、ちょっといいかね」 課長に呼び出されて話を聞き、あたしはショックを隠せなかった。両手に作った握り拳がわなわなと震える。 「小柳君の結婚祝い金の支出準備を頼む」 一歩、いや、何歩も遅かった。どこで知り合ったのか彼は公務員である女性と結婚してしまったのだ。あたしから先にアプローチをかけていたら、とは思うけど、あのときのあたしに勇気なんてなかった。あまりにも彼とあたしが不釣合いな気がして。 「わかりました、準備しておきます」 そのあとトイレで思い切り泣いたのは言うまでもないだろう。しかし、同時にあたしはひとつの決意を抱く。 ――どうせ小柳さんの一番になれないのなら、あたしは二番目の女になってやる。 鏡を涙目で睨み付けて、あたしはトイレを出た。 同期のよしみで、あたしは小柳さんのメールアドレスを知っている。そこであたしはひとつ手を打つことにした。 「結婚祝い金の準備ができましたので、就業後に第3会議室まで来ていただけますか?」 それに対する小柳さんのメールは短いものだった。まあ忙しい部署だから仕方がないけれど。 「わかりました」 でも、いちいち就業後に第3会議室に来るように、なんて違和感ありすぎだろうと改めて思う。もう終わったことだからこの際気にしないで、そのときはそのとき、と腹をくくって結婚祝い金の準備を進めた。 就業後、第3会議室を誰も使わないことを確認し、鍵と結婚祝い金の入った封筒を手に取ると、あたしは席を立った。 会議室の鍵を開けて、「使用中」のランプを点灯させて小柳さんを待つ。でも、いくら待っていても来る気配はない。 やっぱり個人的に呼び出されたことをいぶかしんで総務課長に相談しに行ったのだろうか。だとしたら、今後あたしの会社での立場は……ない。 そう思っていた頃――午後8時過ぎ、やっとドアをノックする音がした。他の部署の人間だと困るな、と思いながらドアを開けると、そこには小柳さんがいた。 「お仕事お疲れ様です」 「ありがとうございます。今ちょうど大事なプロジェクトの準備をしていまして。遅くなってすみませんでした」 その口調は相変わらず丁寧なものだったけど、それが逆に距離を感じさせる。 「それで、ご用件は?会議室に呼び出したっていうことは、何か内密な用件なんですよね?」 苛立ちと焦り。どうしてこの人はこんなに回りくどいんだろう。だったらあたしが引導を渡してやろうじゃないか。気持ちなんてこれっぽっちもこもっていない結婚祝い金と一緒に。 「ええ、非常に内密な用件ですのでくれぐれも他言は控えてください」 吐き捨てるように言うと、私は制服のボタンを一つ一つ外していく。もうどうなったっていい。恥をかいたっていい。だって私の身体はもう準備が万端なんだから。 「矢崎さん、やめてください。いったいどうして……」 「やめません。私が小柳さんの一番になれないのなら二番目の女になってやります」 「落ち着いて……」 「落ち着いていられますか?好きな人が結婚するっていうので落ち着いていられますか?」 無理やりに小柳さんを会議室の椅子に座らせ、スーツのジッパーをおろす。そのままそこを手でさすり続けると、言葉とは裏腹な反応がみられた。予想していたよりずっと熱くて硬くて、大きなもの。頭上から聞こえるのは小柳さん……ううん、渉の吐息。 それに気をよくしたあたしは渉のものを直接取り出す。暖房も入っていない冬の会議室の空気に晒されたそれは軽く跳ねてあたしの眼前に姿を現した。最初はやはり手でさすっていただけだったけど、それだけじゃ誘惑にも何もならない。 だからあたしは一気にそれを喉の奥まで咥える。いっそ理性など突き崩してしまえ。 「く……う」 渉の準備が整ったところで、今度は彼を床に寝かせ、自分の靴とストッキングと下着を一気にずり下ろす。 「矢崎さん……」 「亜理紗って呼んでください」 それだけ言うと、渉の先端をすっかり濡れた自分の入り口にあてがい弄ぶ。くちゅくちゅと音が響いて、誰かが気づかないか心配になる。 そしてそのまま、あたしは腰を沈めていった。 「あ……っ、渉さん、きもち、いいよ……」 「やざ……亜理紗!」 渉が快楽に堕ちたのは一瞬のことだった。あたしの腰をつかみ、自分からあたしを責め立てる。ちょうど気持ちいいところに渉のそれが当たるから、あたしは声を抑えるのに必死だった。 「ん、う、うーっ!」 奥のほうまでずんずんと渉のものが出入りする。奥を叩いたと思ったら外に出てしまいそうなところまでもどり、またあたしの奥を叩く、その繰り返し。たったそれだけのことが気持ちいいのは、相手が渉だから、そして、……二番目の女になれた歓喜。 「ぁ、ん、はぁ……は……んぅ……もっと、もっと……」 あたしの声に呼応した渉は、一度自身を引き抜くと、今度はあたしを床に横たえて再び潜り込んできた。 「――っ!」 声を出すのを我慢するのに必死だった。それぐらいに渉のそれはあたしの一番気持ちいいところをえぐっていく。まるであたしの身体の全てを知っているかのように。 「はぁ、あ、ああっ、だめ、だめ、なの……」 「もうやめて欲しいんですか?」 「ちが……ほしいの、もっと、してほしいの!」 「じゃあ、遠慮はしませんよ」 全体重をかけて突き入れられるとあたしもたまったものじゃない。壊れるんじゃないかという錯覚さえ覚える。ううん、むしろ渉になら壊されたっていい! 「あっん、く……」 「ずっとこうして欲しかったんでしょう?すごく濡らしてましたからね」 「そう、そうなの……私、ずっと前から、渉さんが……」 「そこから先は……言うな!」 強い口調と突然3ヶ所から与えられ始めた快感に私はびくっと身体を震わせた。痛いほどに胸をもみしだかれ、一番気持ちいい突起を別の指ではじかれる。それだけであたしはもう達してしまいそうだった。 「そこから先を言うと……二番目じゃなくなるだろ?」 言いながら、意地の悪い攻めを続ける。あたしの身体はもう限界ギリギリのところにいた。もう自分じゃ制御できないぐらいに全身をガタガタと震わせ、時々背中をしならせていやらしい声を上げる。 「んやっ、だめ、渉さん、イク、もう……」 「まだだ」 あたしの懇願は一蹴され、更に強く腰を叩きつけられる。やがて頭の中が真っ白になって、目の前に火花が散るような感覚を覚えたけど、それでも渉はひたすらに腰を動かし続けた。 「ああっ、もう、声、止めらんないよぉ……」 「もうほとんどの同僚は帰ったし大丈夫だ」 本当なのか信じがたかったが、あたしの声は自分の身体にどんどん素直になっていく。 「っは、あ……あ、あ、ああっ!そ、そこ……気持ちいいよぉ!」 「ここか?」 すっかり人格の変わった渉に翻弄されながら、また飛んでいってしまいそうな意識を必死に手元に引き寄せる。 「そう、そう……もっとそこ、えぐって!」 「ここがいいんだな?」 「あああっ、あっつ、んやっ、またなの……またとんじゃうの!」 「イクのか?俺も……っ」 その瞬間は、ほぼ同時に訪れた。あたしが全身をわななかせ、声にならない絶叫を上げると、あたしの中で渉のも のが爆ぜ、熱いものが注がれる。ひとつになった。二番目の女でいいから、ひとつになれた。単純にそれが嬉しかった。 それからあたしたちはたびたび逢瀬を重ねるようになった。奥さんも帰りが最近遅いらしいからあたしたちも遠慮はない。 毎回会議室だといい加減怪しまれそうだから、今日はラブホテルの一室で会っている。 「ああ、うああ!渉、そこはぁ!」 今度は後ろから身体を貫かれていた。犬が寝そべったような格好で腰を掴まれ突き上げられる感覚は他では味わえない至高のもの。ましてその相手が渉だというなら、尚更のこと。 今宵も、私たちは欲望のまま、お互いをむさぼりあう。 ====== 「その境界線を越えて」の裏ストーリー。要するにW不倫ってことですね。 しかも結婚してまもなく第二の女ができちゃったとか…。どうなのよそれ。 ちなみに関連があるということで壁紙は「その境界線を越えて」と一緒です。 今回はちょっとだけ桜井亜美さんを意識してみましたが、 あの独特の文章は私には無理でした…。 そんなわけで(どんなわけで?)ブラウザバックでお戻りください。 |