「アパートの場所、覚えてくれたわよね?来てもいいよ」 その日は講義も頭に入らなかった。あとで友達のノートでも写させてもらおうと思いながら、英貴は大学をあとにする。目指すのは栞のアパートだ。 今日はサークルの活動が長引きそうだったのだが、早めに切り上げた。それほどまでに栞に会いたかったのだ。仕事の定時は6時と聞いていたがいつも残業があるというので、時間を合わせて栞のアパートに向かう。 自分のアパートとコンビニに寄ったあとに栞のアパートに着くと、ちょうど栞も帰宅したばかりで、そのまま栞の部屋に上げてもらうことになる。 「ちょっと汚いけど、ごめんね」 「そんなことないですよ」 実際栞の部屋はとても片付いていて、彼女の几帳面さを表していた。几帳面でなければ駐車場の料金の管理などやっていられないだろうが。 「ご飯もあるものでしか作れないけど、いい?」 「栞さんの作るものなら何でも」 思ったままを口にすると、栞がまた微笑んだ。英貴が一番好きな表情。 あるもの、などと言っていたがあるものが結構豪華だった。豚肉の塊を柔らかくなるまで煮込んだポトフに手作りのパン。きっと昨日、あのあとに準備したに違いない。 「あ、おいしい……」 「昨日あのあと準備したんだ」 やっぱり、英貴は嬉しさのあまり思わずニヤニヤしてしまう。別に恋愛慣れしていないわけではない英貴だが、栞となるとどうやら別格らしい。 「こんなんどうやって作るんですか?」 「簡単だよ、豚肉を塩づけにしておいて……」 そのあとは学生の本分、レポート作りだ。栞も同じ大学出身なのだが、残念なことに学部が違う。栞は文学部 で日本の古典を専攻していたのだが、英貴は理学部で無機化学の勉強をしている。まったくもって正反対なのだ。 「学部が一緒だったら教授の癖とかも教えられたんだけどなぁ……」 「大丈夫ですよ、僕も1年たってやっとわかってきましたし」 持って来たノートパソコンを器用に操作してレポートを書き上げていく。画面上には難解な数式や化学反応式がまとめられていた。 「すごいね。私じゃこんなのついていけないよ」 「逆に僕じゃ古典わかんないですよ」 レポートが終わったところで、先に栞が風呂に入ることになる。内心ではドキドキしながらも、浴室に向かう栞を見送った。 改めて栞の部屋を眺める。音楽の趣味が一緒だと思えるようなCDが綺麗に並べられていた。いつも栞が使っている香水のにおいがする。 「そっか、今栞さんの部屋にいるんだ……」 明日は大学もバイトも休みだ。何も言っていないのに栞はそこを理解していたのだろうか。だとしたら、ものすごく波長が合うんだなと思う。 シャワーの音が聞こえ始めたと思ったら、今度は「あっ」と何かに気づいたような栞の声。 「どうしたんですかー?」 「ごめんね英貴君、バスタオル持ってくるの忘れちゃった」 その言葉に思わず固まってしまう。つまりそれは……。 「持ってきてくれると嬉しいな」 やっぱり。嬉しいような悲しいような、英貴はがっくりと肩を落とした。 籠に入ったバスタオルを1枚取り出して浴室に向かうが、はたと手を止める。よくよく考えると、浴室の一歩手前まで行くわけで、その先には全裸の栞がいるわけで……。 確かに栞とは昨日することをしてしまったのだが、改めて考えると照れくさいものがある。増して昨日は暗かったのだが、今日は明るい浴室なのだ。 「入りますよ」 一言断ってから、脱衣室に足を踏み入れる。シャワーの音はまだ続いていた。 「英貴君、ありがとう」 「いえ」 「ねえ、なんなら英貴君も入る?」 「え」 耳を疑った。 「一緒にお風呂、入らない?」 昨日の一件で、栞が恋愛に積極的なほうだというのは知っていたが、まさかここまでとは。 「本当に、いいんですか……?」 唾を呑み込み、訊ねると、 「よくなきゃそんなこと言わないよ」 などと返してくる。 「おいでよ、英貴君」 いろいろな誘惑に、ついに負けてしまった。 英貴は部屋に戻ると小さなタオルを持ってきて、脱衣室で着ているものを全て脱ぎ捨てる。 「入りますよ」 さっきと同じ言葉を口にしてから、浴室に入る。栞の身体のラインは思っていた以上に美しくて、思わず見とれてしまう。 「どうしたの?」 「いえ、綺麗だなぁって」 「恥ずかしいこと言わないの」 栞は笑いながら、英貴に椅子を譲った。さっきまで栞が座っていた椅子に、たかが椅子に、妙にドキドキしてしまう。 身体を流した後で、一緒に浴槽に入る。一緒に入るのには少し狭かったが、その分密着感がある。そう、昨日を思い起こさせるかのような……。 いつの間にか英貴のそれは熱くなり、栞を欲しがるようになっていた。 それはどうやら栞も同じだったようで、 「英貴君」 なにやら熱っぽい声で英貴に声をかけてくる。 「……なんですか?」 「その……」 「その、ってなんですか?」 意地悪く声をかけてやる。言葉の先に何が待っているかは知ってはいるが、それを栞の口から改めて引き出そうとしたいのだ。 「今日もしたいんだけど、……いい?」 実にはっきりとした言葉だった。無論、英貴にも断る理由はない。いや、断れない状況に身体が追い込まれてしまっていた。 「癖になったんですか?」 「うん……」 頬を赤らめる栞に、少し意地悪をしてやろうと思った。 「後ろ向いてください」 「あ、うん……」 言われたとおりに後ろを向く。次の瞬間英貴は肌を密着させ、栞の胸をわしづかみにした。 「きゃっ……ここで、するの?」 「最後はちゃんと向こうの部屋でしますから」 「ん……」 今度は英貴が誘惑する番。甘い猫なで声で耳元で囁くと、栞は身体を震わせて声を上げた。 しばらく胸を揉みしだき、栞の柔らかさを存分に堪能したところで彼女の身体を反転させる。 「あんまり、見ないで……」 「ダメです」 あっさりと拒否して、改めて栞の裸身を堪能する。当の栞は英貴の身体、いや顔すらろくに見られないらしく、さっきから顔を背けっぱなしだ。耳まで真っ赤に染めている姿が愛らしかった。 そっと胸の頂に舌をつけると、身体が大きく跳ね上がる。 「あっ……」 「くすぐったいですか?」 「気持ちいいの……」 「ならよかった」 言いながらそこを舌で転がし、吸い上げ、時に甘噛みする。昨日の一件から英貴は少し積極的になっていた。栞の性格からすると、それぐらいがちょうどいいはずだ。 「んは、あ、んうっ……」 このくらいでいいだろう。そう思うと英貴はくたくたになった栞の身体を起こしてやり、浴槽に座らせる。 「脚開いてください」 「えっ……」 さすがにそれには抵抗があるらしい。おそらくそんなことはしたこともなかったのだろう。明るい場所で全てをさらけ出すなんて。 「大丈夫ですよ、栞さんだったら絶対綺麗ですから」 「でも……」 「だから大丈夫ですって」 なかなか譲ろうとしない栞にやきもきして、つい自分で栞の脚を押し広げようとする英貴だが、できれば栞に自分でして欲しい。 「これで、いい……?」 ふと顔を上げると栞が顔を真っ赤にして脚を開いていた。そこはもうどろどろにとろけきっていて、英貴の攻めを今か今かと待ち構えている。 「最高です」 言うと、そこにそっとキスを落とす。瞬間、栞がびくんと身体を大きく震わせた。まずは全体を大きく舐めてみる。 甘い。溢れかえったものを拭うどころか更にとろけ出てくるものだからどうにもならない。 「あっ、あ、あ……ひ、英貴、くん……」 「栞さんめちゃくちゃ濡れてるじゃないですか」 「そんなこと」 「言いますってば。だって栞さんからしたいって言い出したんですよ?」 先など言わせない。ここはいっそ快楽に溺れていただこう。 「ほんとは、言うの、恥ずかしかったんだからぁ……」 「今とどっちが恥ずかしいですか?」 「……今……っあ」 やがて英貴が我慢ならなくなると、立ち上がって栞のベッドルームに直行する。 「んく、ん、う……」 「栞さん……すごい」 今度は形勢が逆転したようだった。栞に口でして欲しいと請うと、あっさりOKが出たのだ。そして、今のこの状 況である。 少しだけ苦しそうに、でも一生懸命に英貴を気持ちよくしようと唇と舌で責め立てる。あまり方法についての知 識はないが、そこは英貴に教えてもらって。栞は呑み込みがよかったから、すぐに英貴の言うとおり、彼が最も感じる方法を取る。 「ごめん、栞さん、もう無理……入れてもいいですか?」 「うん……いいよ」 コンビニで買ってきた避妊具をつけると、栞の脚を大きく開き、 「いいですか?」 念のため口だけで確認する。下のほうでは栞のそこに自分のものを押し付けてこすりあげ、いつでも入れるような体勢になっていたのだが。 「うん、いいよ、……っああああ!」 いいよ、と栞が言った次の瞬間には一気に彼女を貫いていた。身体を反り返らせ、全身で英貴を受け止める。 「ん、栞さん、きついですって……」 「あ、でも、止まらないのぉ……」 確かに、もう止まらない様子だった。昨日以上にぐいぐいと締め付けてくるそこに、英貴は思わず眉を寄せる。だめだ、このままでは……。 さっき以上に律動を加えると、栞は身を捩って泣き声にも似た声をあげる。 「ん、う……ふ、ううっ」 栞はもう息もできないような状態まで追い込まれているらしい。そこにも絶頂への前兆が現れていた。それならば、もう達してもかまわないだろう。 さらに腰の動きを早いものに変えると、やがて栞が声にならない声を上げて全身をのけぞらせ、力の入らない手で英貴の腕に触れる。同時に英貴も全てを解放して、そのまま栞の胸に倒れこんだ。 眠ってしまった栞の髪を撫でながら、英貴も半ばうとうとし始めていた。 彼の心を温かく包んでいる感情は――そう、栞への愛。 出会って数ヶ月、こういうことになってまだ2日。なのにそう思える人に出会えた。 喜びに支配されながら英貴も眠りに落ちていく。 翌日、バスタオルを忘れたのは確信犯であることを聞かされた英貴は苦笑するしかなかったのだが……。 このままシリーズものになっちゃったらどうしよう。 ブラウザバックでお戻りください。 |