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 もうすぐ、年に一度の祭がやってくる。
 はるか昔から行われていた祭りだが、関係者以外は別殿で毎年行われていることを知らない。昔から厳格に口止めされているのだ。
 これは毎年出店や勇壮な神輿で盛り上がっている、そんな祭りの裏のお話。

 春香が別殿での神事に参加することになってから一夜明けた。
 勿論クラスの誰もが別殿のことは知らないし、別殿のことは誰にも話してはいけないから彼女は一人で悶々としていた。
 ――別殿での神事って、何やるんだろ。
 もう一人、別殿での神事を行う人間がいるのは知っているのだが、男女二人で二夜を共にするというシチュエーションも不思議だった。一体どういうことなのか。
 更に、その人間とは当日まで顔をあわせることは一般的にはないとされる。考えるほど、この祭がわからなくなってきた。
「春香、どうしたの?」
 一緒にお茶をしていた友人に尋ねられる。やっぱりそうだろうとは思っていたが。
「ううん、なんでもない」
「そういえば来週のお祭、行く?」
 来ると思っていた質問だ。別殿での神事のことは言えないのでうまくかわす必要がありそうだが……。
「ごめんね、その日家族とはずせない用事があるから」
「そっか、じゃあまた来年ねー」
 いくら友人とはいえ、神事のことには緘口令が敷かれている。今まで誰が行ったのか祭の関係者以外は誰も知らないのだ。男女二人という空気で、そのぐらい内密な神事ということは……。
 ――まさかね。

 不安と闘いながら訪れた祭の日。
 近くの泉で禊を終えた後、巫女の衣装に着替え、別殿に案内された春香は意外な人物との再会に驚く。
「あれ、春香じゃねぇの」
「俊也くん!久しぶりだね」
 俊也は中学までの同級生だった。そして春香の初恋の人。
 結局俊也が異常にモテたため、春香は思いを伝えないままに終わった。高校も別だから、3年ぶりの再会である。
「この神事って何やるんだろうねぇ……」
「俺は聞いてないよ。これから説明するみたいなことは言ってたけどさ」
 しばらくそういった感じで近況報告などしていると、宮司が外から声をかけてきた。
「坂本さん、野月さん、準備はよろしいですかな?」
「はい」

「え……?」
 宮司の言葉の意味が、最初はわからなかった。
「『交わる』っていうのは、まさか…」
「君たちが思っているとおりですな」
 行われる神事。それは、時間の限り何度も何度も身体を重ねるということだった。
 近くの泉で禊を行い、そのまま閨でことに及ぶ、というのだ。そんなの信じられない……と口をついて出そうになったが、言えなかった。昔から伝わる祭りの重要な役割、と言われると何故か文句も言えなかった。
「世間では恥ずかしいことと思われておりますが、実際にはとても神秘的なことなのですよ」
 とは言われても、心中では簡単に納得できるはずはない。
「用意はできております。少し離れたところに見張りがいるので誰も来ることはありませんよ」
「でも……」
「大丈夫ですよ。ご安心ください」
 断言されてしまった。しかもそのまま宮司は去ってしまう。
 一度戻ってきて、「鍵は内側からかけられますよ」とは言ったが、それっきり。人っ子一人近づく雰囲気はない。それもそうだ。別殿は本殿よりだいぶ離れた丘の上にひっそりと佇んでいるのだから誰も近づきようが無いのだ。
「……なあ」
「え?」
「どうする?」
 俊也の問いももっともだ。何もしなくても、もしかしたらバレないかもしれない。でも、今日は祭りだ。幼いころから慣れ親しんだ、大好きな祭り。
 できれば与えられた仕事を全うしたい。でも……。
 寝床に入ると、ご丁寧に枕元には避妊具が置かれていた。
「ご安心ください、ってこういうことなのかな……」
「多分、な」
 なんだか俊也の様子がおかしい気がしたのは気のせいか。
「どうするの?」
「どうする、って……春香が嫌じゃなかったら、俺は祭の仕事を全うするよ」
 祭の仕事。その言葉に胸がちくりと痛んだ。そうだ、初恋の相手だからかもしれない。初恋のころのことを思い出しているだけなのかもしれない。そう思い込むことにした。
「あたしは、いいよ……」
 昔叶えられなかった想い、告げられなかった想い。それが一度に春香の心に流れ込んできて。彼女ははっきりと頷いていた。

 俊也はそっと春香を布団に横たえる。胸の高鳴りが、お互いに一段と強まった。恋人同士がするそれのように唇を合わせると、更に胸が締め付けられる想いになる。春香の太腿にはすでに硬さを増した俊也のそれが押し付けられていた。
「待って……」
「嫌?」
「嫌じゃないけど、あたし……」
 そのまま俯いてしまう。そこから先は恥ずかしくて言えなかった。まさかこの年で……と思われるのが恥ずかしかったから。
「大丈夫、優しくするから」
 ぽんぽんと頭を撫でられる。少し安心できた。と同時に、やっぱり俊也は優しいと思う。昔俊也に惹かれたのはこの優しさが一番の理由だったから。
 互いに互いの服を、不器用な手つきで脱がしていく。慣れない衣装に戸惑いは隠せない。一応自分で着る術は覚えてきたものの、相手の服のそれまでは理解できていない。

 月明かりに映し出されたしなやかな春香の裸身。その美しさに、思わず俊也は息をのんだ。
「そんなに見ないで……」
「ごめん」
 軽く謝りつつも、そっと春香の頬に手を伸ばす。優しく撫で上げると、それだけで春香の身体がピクンと跳ねた。頬だけだと言うのに。本当に春香が初めてだと言うことを知り、俊也の胸も更に高鳴りを増す。
 抱きしめて、首筋にも口付ける。
「っ……」
「声出さないの?」
「どう声出したらいいかわかんないよ……っ」
「好きなように出せばいい」
 そして俊也はそのまま、そっと胸のふくらみに手を伸ばす。
「だめ」
「どうして?」
「小さいもん……」
「小さいほうが感度がいいって言うでしょ?」
 事実、春香の胸は俊也の手の中にすっぽりと入ってしまう。優しくもみしだくと、春香の背中が少ししなったように見えた。出来上がった隙間を掬い上げるようにして春香を起こし、また胸を揉む作業を続ける。開いたもう片方の胸では、その先端を舌で転がすことにする。
「ひゃっ、くすぐったい」
「そのうち気持ちよくなるはずだから、少しの間我慢して」
 俊也の言葉は事実だった。くすぐったいだけでない、なんだか甘酸っぱいような感覚に春香は身を捩った。
「うん……俊也くんの言うとおりだよ」
 俊也に完全に身を預ける気になったらしい。それは羞恥より快楽が勝った証。
 俊也は優しく春香の全身に口付けを落としていくと、やがて太腿の間にたどり着く。誰にも見せたことがない場所を見せるのにはやはり抵抗があったようで、あわててその部分を手で隠す、が、その手は俊也に軽くのけられてしまった。そのまま脚を開かされると、その部分があらわになり、月明かりに濡れて妖しく光っていた。
「あ、思ってたより……」
 そこから先は敢えて言わなかった。言わない代わりに、そこを指でなぞってみる。本人に感じてもらったほうが早い、とでもいうように。
「あっ……」
 初めて自分から出した甘い声だった。甘さを帯びた痺れるような感覚に抗えなかった。
 それを確かに見届けた俊也は、そこをなぞる動きを次第に早め、一番敏感な突起を軽く弾いたりしてみる。
「やっ、あ……俊也くん、なに、これ……?」
「なにって……決まってるじゃないか」
「そうじゃなくて」
「ああ、ぬるぬるするって?自分でも触ってみる?」
 言いながら俊也は春香の手をとって、そこに指をもっていく。初めて覚えたぬるりとした感触に、春香は思わず手を引っ込める。
「恥ずかしがらなくていいって。当たり前のことなんだから」
 言いながら、顔をそこに近づけるとそのまま口づけた。
「だめっ!そこ、汚いよ」
「汚くなんかない」
 突起を舌で撫ぜると、春香はさすがに身体をびくんと跳ね上げ、拒否の意思を見せる。しかし「身体は正直」とはよく言ったもので、もっとして欲しいとでも言うかのように一番気持ちよかった場所に俊也の舌をいざなう。
「あ、あ、ああっ……」
「そんなかわいい声出すんだ……」
 さも嬉しそうに春香のそこを舐めとり、吸い上げる。
「きゃああっ!」
「ごめん、強すぎた?」
「い、いいの……大丈夫」
 春香の瞳は快楽に濡れ、必死で何かを求めていた。もっと愛撫を続けて欲しいのか、それとも……。
「そんな顔されたら、俺だって我慢できなくなるよ」
 何かを察したのか、俊也は慣れた手つきで避妊具を手に取り、するするといきりたったものにつけていく。そして改めて春香を布団に組み敷いて、そっと先端を入り口にあてがう。
「痛いかもしれないけど、大丈夫?覚悟はできた?」
「うん……俊也君なら、平気」
 「俊也君なら」の部分をわずかに強調し、春香は頷く。
「じゃあ……いくよ?」
 もう一度春香が頷くと、次第につらいと思うほどの圧迫感が広がり、その身体の入り口から奥底まで鋭い痛みが走った。
「あ、や、いた、痛いよぉ……!」
 髪を振り乱して涙を流す春香に、俊也はそっと口づける。
「もうすぐ……全部、入るからっ」
 俊也も初めて男性のそれを受け入れる春香のそこに、思わず暴発してしまいそうになる。
「だから、深呼吸して、力抜いて……?」
 しかし春香にはそんな余裕がなかった。さっきまで溢れていた透明な雫に混じる鮮血の紅。身を捩って必死で抵抗を試みるが、俊也に身体を貫かれた状態ではそれすらもままならない。
「春香っ、落ち着いて……きついのは、俺も一緒だから……」
 もちろん、春香とは違う意味できついのだが、とにかく春香を安心させたくて何度も何度も口づけを繰り返す。やがて力が抜けてきたのか、春香の呼吸も落ち着いてきた。
「大丈夫?」
「こんな……痛いなんて、思わなかったよ……」
「ごめん、優しくできなくて」
「ううん、俊也くんは優しかったよ」
 さっきより更に潤みを増した瞳と春香の言葉に、俊也は心の中で何かが突き動かされる感覚を覚える。今までにない、何かが、俊也の心を貫いていく。
「動いても、いい?」
「痛くない?」
 不安そうに俊也を見上げる春香に、彼は優しく微笑んでみせた。
「慣れるときっと大丈夫だよ」
 言うと、そっと、本当に優しく腰を動かし始めた。
「やっ……痛いよ、だめぇ……俊也くん、痛いよ、痛い……!」
 それでも痛がる春香の髪を撫で、快楽に溺れそうになりながらも自我を保ち、春香の身体を気遣いながら自身も身体を動かしていく。
「大丈夫?」
 首を振る春香だが、時がたつにつれ痛みと違う「何か」が春香の心と身体を支配していく。
「大丈夫じゃない……けど、なんか、あたし、変なの……」
「変、って?」
「なんか、痛いのにきゅーんって感じてきて、もっと俊也くんが欲しくなって……気持ちいいって、こういうのを言うの?」 
 あまりに初々しいその言葉が、俊也の心になおのこと火をつける。
 ――可愛い……。もっと感じてる姿を見たい。
 そこからの俊也は遠慮がなくなっていた。
「あうっ、くぅ……っは、あ、ああっ」
 苦しみを訴える声が次第に甘いものへと変わっていく。そう、これが俊也の望んでいたものだ。痛みはもう心配ないと判断した俊也は、腰の動きをわずかに速めた。
「そう、それを、……気持ちいいって、言うんだ」
「ん、ああぁ、きゃうっ……はぁ、あ、あぁ……」
「あ、どこがいいか、わかった……」
 一瞬だけ春香の声が変わったときに擦れた場所。そこだ。そこに狙いを定めて更に腰を進めていく。
「しゅんや……くん!そこは、そこは……!だめなのぉ!」
 明らかに反応が違う。それに気をよくした俊也は、自身も爆発しそうなのを堪え、そこを擦り上げるようにして刺激を与えていく。
「やっ……なんか、だめ、おかしくなっちゃうよ!」
「いいよ、おかしくなっても……俺も、おかしくなりそう、だから」
 実際限界まできているところを必死で我慢しているのだ。おかしくなるかならないか。その狭間で揺れる様に二人は快感を貪っていた。
「もうだめ、ほんとに、だめぇぇぇ!」
 ぎゅっと春香の中がきつく締まると、俊也も限界を感じたのかそのまま欲情を爆発させる。俊也が自身を引き抜くと、シーツには春香の破瓜の証。自分が春香の初めての相手だということに、俊也はなぜか満足感を覚えていた。

 そう。俊也も3年前のことを思い返していたのだ。
 常に成績が学年トップの才媛である彼女には近づくことすらできなかったし、自分は大して興味もない女子生徒たちの取り巻きができる。
 卒業式の日も第二ボタンを渡したかったのだが取り巻きの女子生徒にもぎ取られていってしまった。
 近づきたくても近づけない。微妙な距離。でも俊也はずっと春香の事だけを見ていた。高校が離れたのは仕方がないとは思ったが、それでも一目でも会えないかと彼女の高校の近くで待っていたりもした。結局一度も会えずに可愛いという制服姿も拝めなかったけれど。

 それが今、何の因果か再会したその日に身体を重ねることになるとは。

 むくり、と再び俊也のそこに力が入る。ふと春香のほうを見ると、呼吸はすっかり落ち着いた様子で俊也の瞳を見つめていた。
「ねえ……もう一回、ううん、眠くなるまで……」
 やはりその瞳は俊也を誘うものだった。少女が女になった瞬間を垣間見た、そんな気がする。そして彼女を女にしたのはほかならぬ、自分。

 横たわっている春香の身体を無理やり解き、もう一度唇から乳房へ自らの唇を這わせる。
「俊也くん……」
 甘い声で名前を呼ばれたらたまったものではない。もっともっと、春香の身体を味わいたい。祭のことなど忘れて、もっと彼女を抱いていたい。
 胸の先はとっくに固くなっていて、そこを子供のようについばみ、啜る。
「あ、ああっ!はうぅ……いやぁ」
「本当に嫌?」
 答えをわかっていながら尋ねる。
「そうじゃ、ないの……違うの、もっと、してほしいの」
「素直になればいいのに」
「やっ、ん、だって、恥ずかしいよ……」
「でも、俺はもう春香の全部を見たよ?」
 その言葉に、春香の頬がかっと紅くなった。
「それに、また見る。……ごめんな、痛かっただろ?」
 シーツにできた紅い染みに心が痛む。春香は春香でその優しさが嬉しかった。
「ううん、もう平気。だから……」
「だめだ、ちゃんと濡らさないと。さっきより痛くなる」
 しかしそう言ってそこに触れると、さっきより明らかに熱を帯び、蕩けているのがわかる。血液……というわけではなさそうだ。
「あれ……?もしかして、俺にされてるところ想像して、濡らしてた?」
「……」
 無言で頷く春香が愛しい。思わず春香を抱きしめると、戸惑いの声。
「え、あ、俊也くん……どうしたの?」
「ごめん。もう挿れるね」
 一言だけ謝罪の言葉を挟むと、そのまま再び春香の中に潜り込んでいく。
「あっ、ああっ、い……」
 虚空をまさぐる手、涙で潤んだ瞳。
「まだ痛む?」
「す、少しだけ……」
 しかしその言葉には明らかに無理をしている様子が伺えた。
「大丈夫、だから」
「ん……っ」
 耳元で囁いてやると、春香が身をぴくんとしならせる。どうやら耳も感じる体質のようだ。
 そして俊也は手を春香の細い腰に当てて、一度目よりも早く腰を動かす。
「や、あ、んうぅ……ねぇ、しゅんや、くん」
 息も絶え絶えといった様子で、おねだりでもするかのように俊也を見つめる春香。
「さっきの……すごく気持ちよかったところ、また、して……」
 発せられた言葉はまさしく子供のおねだりそのもの。三度胸を突き動かされた俊也は、腰をつかんだまま激しくそこを狙って抽送を再開した。
「や……ぁん、はぁ、は……もっと、そこ、もっとして、お願いだからぁ……!」
 早口で希う春香に、俊也は身体で応える。こころなしか、そこを刺激すると春香のそこが締め付けを増し、俊也自身も高みにのぼりつめていくのがわかる。
「はる、か……」
「な……ひあうっ、なに?俊也くん……」
「俺も、気持ちいいよ」
 快楽に少しだけ引きつった笑顔を見せる俊也に、安心して身をゆだねる春香。もはや二人は最初のぎこちなさなど思わせないほどに一体となっていた。身体も……そして心も。
「もうだめ、だめ……変になるっ!ねえ俊也君、これ、なに?おかしくなっちゃうの、なに?」
「それは……『イク』って言うんだ」
「い……いく?」
「そう」
 短く返事をすると更に春香の身体を貪り始める俊也。
「じゃあ、これ、が、いくってこと、なんだ……っ、あ、もう……!」
 思わず俊也の背中に爪を立て、声にならない声を上げ、再び身を仰け反らせる。同時に俊也も自らの欲望を春香の中で爆発させる。

 いったい何度それを繰り返したのか。それさえも覚えていないほどに、その夜はお互いを貪りあった。
 祭はまだ始まったばかり。翌日に待つものは一体何なのだろうか。そして、二人の淡い初恋は……。


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