一目惚れなんて、自分に限ってはしないと思っていたのだが。

 ここのところ、英貴は頭を抱えっぱなしだった。
 2年生になり、車通学ができるようになったことをきっかけに、学生駐車場の件で学生課に顔を出したのが全ての始まり。学生課の新人の女性が受付をしてくれたのだが、どうもその女性に一目惚れをしてしまったらしい。知っているのは、学生課にいること、名札に書いてあった「野坂栞」という名前だけ。
 車を変えたときや駐車場を解約するとき、毎月の料金を払いに行くときだけしか彼女との接点はなく、しかもいつも用件だけで終わってしまうため、接点がなくて悩んでいたのだ。
 何か他の話が少しでもできたら。そう思うのだが機会がない。弁当を毎日作っているらしく食堂には現れないし、講義にだって勿論姿を見せることはない。

 そんなある日の夜のことだった。
 英貴がサークルでの活動を終えて帰ろうとすると、裏門の前に栞が困ったような面持ちで立っていた。外は今年一番の大雨。しかも突然降ってきたのだから傘の準備がないのも無理はない。
 急いで車を走らせて、何があったかと聞くと、果たして英貴の予想通りだった。いつもは自転車通勤なのだが、突然の雨に自転車では帰れないし傘も持っていない、バス停から遠い位置にアパートがある、というわけで帰るに帰れない、ということだったらしい。

「じゃあ、僕が送っていきますよ」
このときはまだ下心も何もなく、単純な親切心から栞を送っていってあげようという気になっただけである。無論、かすかに何かあることを期待してはいたのだが。
 
「藤島君って運転上手なんだね」
 突然そんなことを言われたのだから、ギアを入れ違えてがりっと嫌な音をさせてしまう。
 さっきから気が気でない。憧れの人が横に座っている、しかもこんな至近距離で密閉空間とも言える場所で。次第に英貴の心にはある決意が生まれてきた。栞に自分の思いを伝えてしまおうという決意。チャンスはきっと今を逃せばないだろう。
「ありがとう、ここでいいよ」
 栞が車を降りる準備をしたとき、英貴は彼女の手首をぐっと握って自分のほうに力任せに引き寄せる。そのまま栞を抱きしめた。
「藤島君……?」
「好きです」
 それだけ言うのがやっとだった。
「……気持ちはうれしいし、私も藤島君のことは気になってたよ。でも、ごめんね……」
 英貴は栞を抱きしめたまま、悲壮な面持ちで呟く。
「どうしてですか?お互いに好き合ってるのに」
「だって、年上の彼女っていうので藤島君が友達にからかわれるんじゃないかって思って……それに、まだ私たちお互いのことよく知らないよね?」
 顔を伏せる栞の顎を強引に持ち上げ、唇を重ねる。
 最初のキスは探るように。栞に抵抗の意思がないことを確かめ――実際には栞は突然のことでどうすることもできなかったのだが――一度唇を離すと、今度はもう少し強く唇を押し付けてみる。
「ん、んー」
 栞はここでやっと抵抗しようとしてみせるが、年若い英貴にはそれすらはねのける強い意志があった。栞が欲しくてたまらない、その全てを一度でいいから自分の手中に収めてみたい、という意志。
「だめだよ……藤島くん」
 英貴が二度目に唇を離したとき、栞は首を振った。震える声と髪から漂うほのかな香りが、ついに僅かに残っていた英貴の理性を突き崩す。
「そんなこと言われても、僕もう止まりませんから」
 3度目のキスは少しだけ強引に、でも栞を思いやって。英貴の舌が柔らかい動きで栞の唇をそっとなぞり、少しだけ、でも確実にこじ開けていく。やがて栞の舌を探り当てると、思い切って絡ませてみた。
「ふ、うぅん……」
 背中をしならせて無意識で英貴にしがみつく栞。この瞬間、英貴の強い意志の元に栞が完全に崩れ落ちた。そこで素早く車の座席を倒し、栞を組み敷く。栞は英貴の背中に手を回すことはあっても、彼を拒むことはしなかった。できなかった。

「年上とか年下とか関係ない。知らないことはこれから知っていけばいい、だから……僕だけの栞さんになってください」
 いつの間にか、英貴は栞を名字で呼ぶことをしなくなった。

 ほんの数ミリだけ顔を離すと、英貴は栞の首筋に顔をうずめた。そのまま器用に首筋に舌を這わせながら服をたくし上げていく。そして、体を硬くしたままの栞にそっと声をかけてみる。
「慣れてないわけじゃないですよね」
「そうだけど……」
 おそらく経験があまりないのだろう。逆に言えば過去に一度でも経験があるということ。それを察した瞬間何かが急に英貴の胸の奥から突き上げてきて、大きく息をついた次の瞬間には栞の下着さえはずしていた。
「そんな、だめだよ、外に人がいるかもしれないし……」
「言いましたよね、僕もう止まらないって」
 前々から大きめの胸が気になってはいたのだが、こうして目の当たりにすると想像以上だったのがわかる。年上とはいっても3つだけなので衰えはまったくなく、むしろ今が女としての全盛といった思いがした。
 手を触れると程よい弾力を感じる。胸の頂はすでに硬さを増していた。
「栞さん……もう硬くなってる」
「や、言わないで……」
「言いますよ」
 そこに首筋から舌を這わせると、栞は身を捩って声をあげる。
「んん、う……」
「もっと声聞かせてくださいよ」
 精一杯とろけそうな声を出して栞を追い込もうとする。栞は声ですら感じる性質のようで、英貴の言葉にすら甘い声を上げて応えていた。
「ん、はぁ、あ」
 潤んだ瞳で英貴を見つめる栞。目が合った瞬間、もう我慢がならなくなった。スカートの中に手を伸ばし、下着とストッキングを一気に引きおろす。
「待って」
「待てません」
 靴まで全て脱がせると、改めて脚を撫で上げるように指先を上に持っていき、太ももで思う存分焦らしてから肝心の場所にたどり着く。
「っあ……!」
「すごい……」
 それしか言葉が出ないほどに溢れている。ともすればこのまま一つになってしまってもよさそうなぐらいに。それでも英貴は更に責めを加えるという選択肢をとった。もっともっと、栞が乱れる姿を見たい。
 一度指先をそこから離すと、ぺろりと舐めて少し濡らしてやる。少しでも栞の負担が減るようにとの配慮だった。そしてその指をそこに戻し、まずは1本だけ、中指でそこをまさぐり、中に埋めてみる。栞のそこは抵抗なく英貴の指を受け入れた。
「だ、め……そこ、やぁ……」
「ホントに嫌なんですか?」
 首を振る栞。待ってましたとばかりにもう1本、人差し指もそこに加えてやると、
「んあぁ、はぁ」
 さっきより確かな反応。それが面白くなってしまったのか、英貴はそこを思う存分弄んでやる。中をかき回したり、指先を軽く曲げて出し入れしてみたり。そのたび栞が体をびくつかせて甘い声を上げるものだから、動きはどんどんエスカレートしていった。
「スカート、汚れちゃうよぉ……」
「洗えばいいじゃないですか」
 しれっと言ってのけ、更にそこを攻め立てる。
「あ、だめ、藤島君だめぇ……」
 何がダメなのか、英貴にはわかりきっていた。いや、わかっていたのは実際にはダメではないということだが。
「いいですよ?」
「あ、いく、もうだめぇ……ああぁーっ!」
 ガクガクと全身を震わせ、英貴の指をぐっと締め付けると、一気に身体が弛緩する。もはやスカートどころか車のシートさえ濡らしてしまっていた。
「シート、びしょびしょですよ?責任とってくださいね」
「ん……わかったよぉ、だから……」
「何ですか?」
 わかっていて意地悪く問う英貴に、栞は更に泣きそうな瞳で、

「藤島君のが、ほしい……」

 やっとの思いで答える、が英貴は更に意地悪をしてみる。栞が意地悪されると感じるタイプだというのを見抜いたらしい。
「ダメです」
「どうして?」
「僕もしてもらってからです。あと……名前で呼んでください。でないとダメです」
「うん……」
 英貴のそれはもう限界まで張り詰めていたが、栞の滑らかな指先でしごく様に、そして撫でる様に触れられると更に大きさを増す。
「もういいですよ……じゃあ」
 その先を促すように栞を見やると、栞も全てわかっていたかのように、
「英貴君のが、欲しいの」
 ため息をつくように答える。ここまでくればもういいだろう。英貴は何も言わずに栞の中に身を沈めた。 「んくっ、うぅ……」
「痛いですか?」
「大丈夫、だけど……あぁ!」
 大丈夫と聞いた瞬間身体が勝手に動いていた。溢れるほど濡れたそこに何度も何度も腰を打ち込む。さっきキスしたときのように自然と栞の身体がしなり、英貴はその身体をしっかりと抱きとめていた。もう離したくない、とでもいうかのように。
「英貴君、私……」
「まだです」
 本当は英貴も限界が近かったのだが、その前に一度栞がのぼり詰めてしまったほうがいい。柔らかく締め付けてくる快感に身を震わせながらも、英貴はそんなことを考えていた。
「まだなんて、そんな……私、もう、あ、いやああああ!」
「く……っ」
 ぎゅうっと締め付けられ、達してしまうのを必死でこらえる英貴。栞の身体の力が抜けたところで再び腰を打ちつけ始める。栞の身体もそれに反応し、英貴を離すまいと締め付ける。
「栞さん、いいですか……?」
 もはや限界に達している英貴の声は掠れていた。
「うん、いいよ、このまま……っ!」
 栞が再度達したのを確かめてから、英貴も自分の欲望を一気に解放した。

「あーもうなんか……すいません」
 運転席に戻った英貴は頭を抱えながらシートに寄りかかる。自分のしたことがどれほどのことか今になって身にしみてわかってしまった。取り返しのつかないことをしてしまった。まして、「シートを汚した責任を取ってください」だなんて……。
「いいのよ。ちゃんと助手席のシートも責任取るから」
「……へ?」
「でも、大学には内緒だからね」
 少し熱に浮かされたような表情で、でも確かに栞は微笑んでいた。
「それって、つまり」
「そういうこと」
 栞からのキスは触れるだけのものだったが、それでも英貴にとっては何よりも嬉しいものだった。
「じゃあ、また明日ね」
「また明日って……」
「アパートの場所、覚えてくれたわよね?来てもいいよ」
 栞は意外に積極的な様子で、英貴のほうがあっけに取られてしまっている。
「はぁ……」
「それとも積極的な女って嫌い?」
「いや、嫌いじゃないです、っていうか栞さんならどんなでも……ちょっと意外だっただけです」
 その言葉に栞はまた微笑んで見せた。どう見ても控えめな女性にしか見えないその微笑だが、その中にはたくさんの想いを抱えているんだな、と思う。駐車場代を払いに行くときはいつも控えめそうにしていたのだが、こっちが本当の栞の姿。それを見ることができた喜びで、英貴は胸をいっぱいにした。
「じゃあ、また明日来ます」
 今度はギアを入れ違えることもなく運転して自分のアパートを目指す。早く明日が来て欲しい、そう思いながら。



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